序章:全てを失った日
2021年、冬。私は、人生の全てを失いました。信じていた組織からの、あまりにも理不尽な解雇。そして、何よりも耐え難かったのは、広島の小学校で「顔がうんこみたい」「カンボジアに帰れ」と、卑劣な人種差別によるいじめを受け、心を閉ざしてしまった娘の姿でした。
私に残された道は、一つだけ。娘の心を癒すためだけに、かつて暮らした札幌の、彼女が大好きだった小学校の学区内に、ただ逃げ帰ること。仕事も、家も、頼れる親戚もいない。あるのは、わずかな貯金と、「父親として、娘の心を守り抜く」という、たった一つの覚悟だけでした。これが、私の人生で最も暗く、そして長い冬の始まりでした。
第2章:最後の壁:非情なる「差別」という現実
札幌に戻り、私たちが最初に直面したのは、あまりにも高く、そして冷たい「壁」でした。不動産屋を何軒も回りましたが、答えはいつも同じ。「奥様が、外国人だから…」保証会社が通らない、大家が外国人を嫌がる。どんなに誠実に事情を話しても、どんなに支払い能力を証明しても、たった一つの、自分たちではどうすることもできない理由で、私たちは社会から拒否され続けました。
目の前で、希望の扉が、一つ、また一つと、音を立てて閉まっていく。娘の入学式の日だけが、刻一刻と迫ってくる。焦りと絶望が、私の心を支配しようとしていました。

第3章:人生どん底で僕が捨てた「一つの常識」
銀行の残高は、日に日に減っていく。娘の笑顔は、日に日に消えていく。私は、完全に八方塞がりでした。その、身も心も凍りつくような札幌の夜。ホテルの小さな部屋で、私は自分に問いかけ続けました。「なぜ、前に進めないんだ?」「どうすれば、この壁を壊せるんだ?」と。
しかし、いくら考えても答えは出ません。なぜなら、私は「壁を壊すこと」しか考えていなかったからです。その時、雷に打たれたような衝撃が、私の脳を貫きました。
「…待てよ。なぜ、俺は『アパートを借りる』ことしか考えていないんだ?」
これが、私の人生を逆転させた、たった一つの『問い』でした。私たちは、無意識のうちに「家とは、借りるものだ」という、社会が作った常識(前提)に縛られていたのです。
第4章:【逆転の一手】「借りられないなら、買えばいい」という狂気
その問いを立てた瞬間、目の前の分厚い壁が、まるで幻だったかのように消え去りました。
「そうだ。借りられないなら、買ってしまえばいい」
常識的に考えれば、無職の人間が家を買うなど、狂気の沙汰です。しかし、人生のどん底にいた私には、もはや失うものなど何もなかった。私はすぐさまスマホを開き、「中古マンション」「小学校 学区」と打ち込みました。
すると、信じられない物件が、画面の向こうで私を待っていたのです。「価格1080万円」「学校まで徒歩5分」それは、闇の中に差し込んだ、一本の光の道でした。

第5章:魂の交渉:iPhone越しの奇跡
しかし、問題は山積みでした。貯金をかき集めても、諸費用込みで160万円以上足りない。そして、入居可能日は4月中旬。私たちが仮住まいを出なければならないのは、3月1日。絶望的な1ヶ月の空白が生まれてしまう。
私は、前代未聞の「iPhone越しの遠隔内覧会」で、売主の方に全てを話しました。娘がいじめを受けたこと。彼女の心を癒すためだけに、この街に戻ってきたこと。この家が、私たち家族にとって最後の希望であることを、魂を込めて語りました。すると、奇跡が起きました。同じ小学生の親であった売主様の心が、動いたのです。「わかりました。1000万円にしましょう。入居も、なんとか4月9日に早めます」と。
第6章:最後のパズルピース:空白の1ヶ月と最後の奇跡
最大の障壁はクリアしました。しかし、まだ3月9日から4月9日までの、絶望的な1ヶ月の空白が残っています。アパートも、ウィークリーマンションも全滅。
その土壇場で、私は再び「前提」を疑いました。「なぜ、一つの家族は、一つの家に住まなければならないんだ?」と。そして見つけ出したのが、「家族で住めるシェアハウス」という、常識外れの選択肢でした。
信じられないことに、そのシェアハウスは、広島から送った大量の荷物を置くための倉庫まで、無償で提供してくれたのです。そして、引っ越しのための最後の壁であった「輸送手段」も、新居の目の前にあったリサイクルショップの「軽トラ3時間無料貸し出し」という、最後の奇跡によって解決されました。
第7章:「前提を疑う力」が人生を切り拓くサバイバル術である理由
私の人生を逆転させたもの。それは、お金でも、幸運でもありません。たった一つの思考法、「前提を疑う力」です。
もしあなたが今、人生の壁の前で立ち尽くしているなら、試してみてください。
この思考法は、目の前の壁を壊すためのドリルではありません。その壁が存在するゲームのルールそのものを書き換え、壁の向こう側へとワープするための、究極のサバイバル術なのです。
結論:あなたの人生を縛る「壁」の正体
人生のどん底で気づいたことがあります。私たちの目の前に立ちはだかる「壁」のほとんどは、他人が作ったものではなく、自分自身の「常識」や「思い込み」が作り出した幻だということです。
「借りられない」と嘆くのではなく、「買う」という新しい道を、自分で創り出す。「道がない」と絶望するのではなく、「ならば、自分が最初の道になる」と決意する。
あなたの人生を縛る「壁」の正体に気づき、それを乗り越えるための「問い」を立てた瞬間、あなたの新しい冒険が、始まります。